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【2023年1月】新春


2023年 新春

 

2023年1月 くまもと心療病院 理事長・院長 荒木 邦生

 

 晴れ晴れしない気持ちで新春を迎えるのも何年目だろう。いま人々は不安と抑うつのなかで生きているような気がする。

 

 新型コロナウイルスは変異をし続けて、弱毒化と引き換えに強い感染力を身に着けている。気を付けて予防していても感染してしまう。かかってもたいしたことは無いと社会活動は活発になっているが、感染者が増えれば元々弱っていた高齢者の死者数は確実に伸びる。いつの間にかコロナ後遺症のこともあまり言われなくなった。負の部分に蓋をしようとする意識が社会に広がる一方、我々のような高齢者を多く預かっている病院や高齢者施設は、肉体的にも精神的にも追い詰められている。いま社会は自然と高齢者虐待をしながら命の選択をしていると言える。政治家は選挙に行けないような高齢者のことは今後も考えないのだろう。

 

 期待していたプーチンの失脚もなくウクライナの戦争が続いている。今後も長引いて多くの人を苦しめる様相である。長く権力の座についた独裁者の末路を今後も見続けなければならないのか。ロシアも中国も北朝鮮も距離的に日本に近く、彼らがエスカレートすれば確実に日本に影響を及ぼす。岸田首相は防衛力を高めれば攻められにくくなるというが、本当にそうなのだろうか?私は、圧力だけをかけ続けて追い詰めると一瞬の反発力が強まるような気がして仕方ない。

 

 我々の抱える様々の不安はどうしたら軽くなるのだろう。精神科医はうつ病や不安障害の患者にただ薬を出すだけでは治らないことを知っている。つまり社会のうつ病に対してただお金を配ればよいなどと考えるのは間違いである。安心の環境を整えて不安の荷物を軽くしてあげないと薬を飲んでも慢性化・遷延化するに違いない。

 

 体力のない高齢者は新型コロナでとどめを刺され、数少ない若者は栄養を与えられず背負った荷物も軽くできないのなら、高齢者の今しかない未来も若者の先の未来も無くなってしまう。そんなことでよいはずがない。

 

院外広報誌「りふれ」Vol.73

 新春号 より

 


 

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